第1章 夢
「アウラ起きてるー?今日は港の日じゃないのー?」
一階から声が聞こえる。シスターだ。
街外れの小さな教会で、孤児たちを一人で養ってる逞しい女性。みんなのお母さんであり、あたしの憧れの人。今日も朝からみんなの朝食を作ってるんだろう。
あくびをしながらそんなことを思って、そのままピタリと動きが止まる。
…シスター今なんて?今日??
「今何時!!!??」
悲鳴にも似た声をあげてバッと時計を見ると、時計の針はちょうど8時を指していた。わあ、ぴったり…じゃなくて!
しっかり寝坊じゃん!!!
7時には起きようと思ってたのに!!
あたしは大慌てで、着過ぎてくたびれたパーカーとダボっとしたズボンに着替え、くせのある長い髪の毛を手櫛で一つにまとめた。
ぼさぼさだけど仕方ない。
というか、いつものことだから気にしない。
そして、キャスケット帽とポシェットをひっつかむと、転がるように階段を駆け下りた。ついでに、まとめた髪の毛を帽子の中にぎゅっと押し込む。
「シスター!おはよう!行ってきます!!」
顔も見ずに叫ぶあたしの後ろから、朝ごはんはー?とのんびりとした声が聞こえてきたけど。
「今日はパス!」
「あらあら、それは残念ねぇ」
どこまでもマイペースなシスター。おっとりした声のせいで、言葉の割にちっとも残念そうに聞こえないのが彼女のすごいところだ。
「あ、そうそう…そう言えば、アウラに話があったの!……あら?帰ったら聞いてねー!」
後ろからシスターがまだ何か話している声が聞こえてきたけど、とてもじゃないけど聞いてる時間はない。
無視してごめん、シスター!
なんて思ってたら足がもつれちゃって、あたしは家から飛び出してわずか数歩のところで、盛大にすっ転んだ。
…天罰だ。
神様に仕えるシスターを無視したからだ。
くそう。
街の向こうの港まで、ここから走ってちょうど40分。ほんとにギリギリかも。
痛いなんてわめく暇もなく、あたしは手をついてむくりと起き上がると、そのままの勢いで走り出した。