第11章 疑惑の研究所
どこからか鞘を出現させて手に持っていた長い刀身を収めると、ローはサクサクと雪を踏みしめて近づいてくる。
…な、何か言い訳しないと。
あたしは妙に焦った気持ちで、近づいてくるローに向かってとにかく思いついた言葉を並べてみる。
「で、でもあたしにも譲れないものがあったというか。あの、そりゃローを窮地に立たせたのは悪かったと思うけど…」
「あァ?窮地に立っただと…?」
だけどこれがよろしくなかったみたいで。
視線を逸らしながらモゴモゴ言うあたしに、ますます眉間に皺を寄せるロー。
あ、あたし何か間違った…の??
そんな変なこと言ったっけ。
余計あたふたするあたしを見て、彼は鼻で笑い、至極当然のように、言い放つ。
「おれが白猟屋に負けるかよ」
口の端を少しあげて、不敵に笑う彼。
そうだったよこの人は。
あたしは彼と話す内にだんだんと過去の、あの頃の記憶を思い出しつつあるのを感じた。
そうだ、この人は。
傍若無人で、人に命令されるのが嫌いで、その上に、とんでもなく負けず嫌いなんだった…。
あまりに自信たっぷりに言い切るローを、あたしがあっけに取られて見つめていると、彼は突然ぴたりと立ち止まった。
そして、研究所を背にして座り込むあたしから見て左手側──雪が降り積もる山の方に顔を向けて、わずかに目を細める。
な、なに??
訳もわからず、とりあえず同じ方向を見てみると。
山の向こうから、雪煙をあげながら、見たこともない生物が全速力で走ってくるのが見えた。