第1章 夢
部屋に戻ってから、シスターに言われたことを考える。
『話流れちゃったけど、さっきの話もちゃんと考えてほしいの。帰ってきたら返事を聞くわ。ほんとは私もこんなこと言いたくないけれど、もしあなたが乗り気じゃないとしても一回お話だけ聞きに行くのも有りだと思うの。…ゆっくり考えてみて』
シスターはどうやら今回本気であたしを結婚させる気らしい。
言葉は穏やかだったけど、乗り気じゃなくても結婚してみたら?って、あれはそういう意味だ。
長年の付き合いでどのくらいの本気度かは分かる。
ここまで育ててもらった恩を感じてるあたしはシスターに本当の意味では逆らえない。そして、そのことをシスターもちゃんと分かっていて。
あたしは重いため息を漏らした。
そして、ベッドに寝転がりながらぼんやりと考える。
…本当に面倒なことになったなぁ。
シスターもシスターよ。
何かと言っちゃあ、ケッコンケッコンって。
そんなに結婚が幸せかっての。
あたしはずっと先に教会を出て所帯を持った子たちの顔を一人一人思い浮かべてみる。
…うーん。
確かに結婚した子はみんな楽しそうにしてるんだよなぁ。
考えながら寝返りを打つ。
こうなってくるといつまでも嫌がって駄々こねてるあたしの方がおかしいのかもしれないという気すらしてくる。
なんでこんなに嫌なんだろ。
結婚する相手が好きじゃないから?
…まあ、ライとじゃね。それも否めないけど。
じゃあ、好きな人となら幸せ?
好きな人となら、あたし、喜んで結婚したいと思うの?
いや、そもそも。
…好きって何。
「あーもう、わかんないや」
あたしは考えるのが面倒くさくなって目を閉じる。そこでふと思い出した。
「そうだ、今日は夜の楽しみがあったんだった」
ベッドからむくりと体を起こして。
あまりドタバタすると隣の子供達を起こしちゃうから、出来るだけ静かに移動する。
なんで忘れてたんだろう。
さっきの話で頭がいっぱいになっていたのが、ちょっと悔しい。
そんなことを思いながら、あたしはポシェットからぐしゃぐしゃになった新聞を引っ張り出した。