第1章 夢
『世界経済新聞』
机のライトを薄く灯して、しわしわのそれを机いっぱいに手で広げてのばした。
タイトルから順番に目を通す。
ふむふむ。
世界は今日も混沌としているようね。
グランドラインにいる荒くれ者のニュースは平凡な毎日に刺激をくれる。
もちろん時には残虐な事件や嫌な気持ちになる記事もあるけど、心湧き立つ記事の方がそりゃもう圧倒的に多い。
世界中を驚かすような騒ぎを起こす人たち。
世間の評判なんて考えたこともないに違いない。
本当の自由の中を生きているような奔放さ。
あたしが一番欲しいものがそこにある気がした。
パラパラとページをめくる。
十分楽しませてもらったけど、今日はあたしが一番読みたかった記事はないみたいだった。
最後まで一通り読んでから、あたしは電気を消してベッドに寝転がった。
そっかそっか。
今はどこで何をしてるのかな。
脳裏に浮かんだその人の残像を追い求めて目を閉じる。
あれから4年も経った。
もう声はほとんど思い出せない。
面影はたまに載る世経の写真と重ね合わせてやっと思い出せる程度。
あの頃は今の写真よりもっと幼かったはずだけど、その頃の鮮明な記憶はもう溶けてなくなった。
なのに。
「どうしてこんなにも忘れられないんだろ」
あの人の存在だけがずっとあたしの頭の一部を占領して動かない。
ひたすらに自由を追い求めていた背中。
その背中に追いつきたいといつも思っていた。
そして、できればその先を一緒に見たいと。
結局叶わなくて、今もあたしはこの小さな島で暮らしているけれど。
いつか会えるだろうか。
また、あの人に。
「会いたいな、ロー」
眠りに落ちる一瞬、走馬灯のようにあの頃の記憶が浮かんだ気がした。
第1章 『夢』〈END〉