第1章 夢
ふと思いついたことをそのまま言葉にする。
「シスター、そのパール島に向かう便だけど、ちょうど明日来るのよ。逃すと1ヶ月は来ないわ。これから1週間は晴れ予報だし、行くなら今がチャンスかも」
「そうね…。それは私も思ったのだけれど、ちょっと急すぎないかしら?連れて行ってもらうのはあなたに頼むことになりそうだし、次の便にしてもいいかと思うけれど…どうしましょう?」
困ったようなシスターの声に思わず鼻息を荒くする。
あたしの心配ならどうってことない。
今日でも明日でも、行けと言われればどこへでも行く。
海に出れるんだもん、断る理由がないじゃないの。
「いいよ。行ってくる。あたしのことならまったく問題ないわ。それに…正直ここ、今ぎりぎりでしょう?」
それはシスターが一番よく分かってること。
王国からの補助があるとはいえ、15人も抱えた教会では毎日の生活がカツカツだった。
あたしが稼いだお金はほとんど全部協会のために使っているけれど、それでも赤ちゃん1人養うことさえ厳しい状態。
もし1ヶ月後天候が悪かったら当然のことながら船は来ない。海の天気なんて気まぐれだから、数ヶ月遅れることもあるかもしれない。
急に決まってみんな悲しむだろうけど、ここは思い切って。
「行くよ。明日その船に乗って、ジョナサンを届けてくる!」
思い立ったが吉日。
こういう時のあたしの勢いはとまらない。
それはシスターもよく分かっていて、少し笑ってから、任せるわと言ってくれた。そう言えば、港で働くと言った日もこんな感じだった。
急に慌ただしくなったな。
でもいいや。
船にのれる。海に出れる。
そんな機会、滅多にないんだから。
「じゃ、明日の準備してくるね!おやすみシスター」
すっかりぬるくなったお湯を飲み干すとシスターの頬にキスをする。
シスターは少し困ったように笑うと、迷いながら最後に言葉を発した。
「あのね、アウラ…」