第10章 再会
熟練の海兵の勘は舐めてはいけない。
そして、グランドライン、それも"新世界"の天候は予想の範疇を遥かに超える。
あたしはすぐにそれを学んだ。
だって、たしぎさんに頭を下げてから、船首に向かうまでの間──それも、ほんの十数メートルの間に、分厚い雲が太陽を覆い隠してしまったのだから。
みるみるうちに翳っていく空。
さっきまで雲ひとつなかったのに、船首に着く頃には青空なんて少しも見えなくなってしまったのだ。
「スモーカーさん!」
あたしは彼を見つけるとダッと駆け出した。
好かれてないのは分かってるけど、船に乗せてもらってお礼も言わないような礼儀知らずではない。そう思って急いだのだけど。
ドタン!
直前で顔面から甲板に突撃してしまい、悲しくもそれは叶わなかった。
「いたたた…」
「何やってんだ」
腕をついて起き上がると、スモーカー中将が呆れたようにあたしを見ていた。
手を貸してはくれないのね…。
まあいいんだけど。
あたしは自力で立ち上がり、改めて彼に向き合う。
「あの、船に乗せていただいてありがとうございます。あと、ご迷惑をおかけしてすみません」
そして、ぺこり、と頭を下げる。
スモーカーさんは一瞬怪訝そうにあたしを見たけど、やがてフーーと葉巻の煙を長く吐き出して、
「てめェの始末くらいてめェで付けれるようになってから海に出ろ」
ぶっきらぼうにそれだけ言ったのだった。
それを聞いてあたしはおや、と目を瞬く。だって、無視はないにしても、もっと素性を怪しむ鋭い質問が飛んでくるかと思っていたから。
マリージョアに登っただけでぶっ倒れる軟弱さと、走ってこける鈍臭さを見て、疑うのがバカらしくなったのかもしれない。
いや、たぶん絶対そうだ。
あたしならこんなグズ、怪しむ価値もないと思うもの。
あたしは情けなくも納得してしまった。