第9章 マリージョア
──辺り一面の、緑だった。
青い空と、燦々と降り注ぐ太陽。
そよそよと頬を撫でる風が心地良い。
あたしはここを知っていた。
振り返って、やっぱりと思わず頬を緩める。
──ほら、やっぱり。
愛してやまないあたしの帰る家が、そこにあった。
「アウラ。今日からあそこがお前の家だ」
上から声が聞こえて、はっと振り仰ぐと、ものすごく高いところにさっきのあの人の顔があった。
「お、やっと名前を覚えたか。俺がつけたのが気に入ってないんじゃないかと不安だったんだぜ」
そう言って、刺青のある大きな赤い口でニカッと笑う。
──ついさっきまでぼろぼろ泣いてたくせに。
そう思ったけど、もしかしたらこれはあの時よりだいぶ後の話なのかもしれない。
あたしは目を瞬きながら相変わらず男の人を見上げる。
だって、どうしたらいいのか分かんないんだもん。
あれはあたしの家だって分かってるけど。
だけど、きっと今はまだあたしの家ではなくて。
そして、この人はもうすぐここからいなくなる気がして。
そんなのだめよ。
あたしはまた分かんないことだらけになってしまうじゃないの。
あたしはまた、あなたに理不尽に腹を立てて朝目覚めることになるじゃないの。