第9章 マリージョア
大きなため息が聞こえた。
どこか諦めを含んだ重い重いため息だった。
「おれは知らんぞ…。勝手にしろ」
それを聞いて、あたしを抱きかかえた人が涙を噛みしめて頭を下げた。
今だ…!
その瞬間になんとか身を捩ると、思わぬものが視界に映った。
びっくりするくらい巨大なアフロ。
──何だ、あの髪型は。
目をパチパチさせながら見つめると、その人は厳しい目をあたしに向けた。
「生きていることがバレれば世界が動くことになるぞ…」
「ええ、分かっています。ですが…」
大きな人はもう泣いていなかった。
「コイツを逃した女は死にました。その時に一緒に死んだんです、コイツも」
何?何を言ってるの?
死んだ?誰が??
あたしは生きてるし、こうやって元気に動いて…いや、今はなんでか動けないけどさ。
でも、死んでなんかないよう。
あたしは訳わかんないことを言う大きな人を精一杯睨んでみた。
だけど、その人が。
「どこか──小さくて平和な、のどかな島で、何も知らずに幸せに生きていけばいい。世界がコイツを忘れて、全部、何も無かったことにしてしまえばいい」
泣きそうな顔で、だけど優しく笑うもんだから。
つられてあたしも泣きそうになってしまったの。