第9章 マリージョア
…なんで??
困惑するあたしに気づかず、その大きな人は言葉を発する。あたしを抱きかかえながら。
「それは、言えません…!ですが、おれはどうしてもコイツを放っておけなかった…!」
ぽたり、あたしの頬に冷たい雫が落ちてくる。
何ごとかとまじまじとその人を見上げて、あたしはぎょっとした。
…な、泣いてるの!?
びっくりするくらい大きな人が、ぼろぼろと大粒の涙を流して泣いていたのだった。
目の下にある黒い刺青をぐしゃりと歪ませ、堪えるように大きな赤い口を引き結んでいる。
あたしは唖然とするしか無かった。
「まさか。本当に、あそこから連れてきたのか…!」
別のところからまた声がした。
きっと、さっき怒ってた人だ。
あたしはぴんときて、何とかしてそっちを振り向こうとした。
だけど、思いのほか強い力で抱きしめられていて身をよじることすらできない。
あたしはしばらく頑張ってみたけど、結局ピクリとも動けなくて、あきらめて二人の会話を聞くことにした。
はあ。あたしはまた聞いてることしかできないのね。
「なぜそんな馬鹿なことを…!」
「あそこにいればコイツに未来はないでしょう…!見捨てれば絶対に後悔すると思った。おれは自分を許せなくなる…」
状況についていけないあたしは、なんでこの人に抱っこされてるんだろう、なんて場違いなことを考えていた。
そして、その時になってようやく、はたと気づく。
この人が大きいんじゃない、あたしが小さくなったんだ…!!