第9章 マリージョア
──辺りは暗闇だった。
これはあたしが目を閉じているせいなのか。
それとも目も視覚も失ったせいなのか。
暗い。という表現では足りないくらいの闇。
まさに漆黒、だった。
そんな闇の中、ただひたすらに女の人が泣いている声だけが聞こえてくる。
「…――…っ…」
言っている言葉はよく聞き取れないけれど、聞いていて辛くなる泣き声だった。
「…めん..ね…っ…」
ああ、これは謝罪だ。
謝っているのね。
悲痛な泣き声に混じってところどころ聞こえてくるのは、誰かへの謝罪だった。
──どうして。
どうして泣いているの。
どうして謝っているの。
泣かないで。
あなたは何も悪くないよ。
だから、泣かないで。
あたしは聞こえないと知っていながら、心の中で必死で呼びかける。
どうしてか分かんないけど、この人に泣いていて欲しくないの。心が痛くなるの。
漆黒の世界で、最後に一言だけ、鮮明に聞き取れた言葉があった。
それは、どこの誰かも分からない女の人の、哀願だった。
「…どうか…生きて…っ….」