第9章 マリージョア
突如、遠くに灯が現れた。
ものすごく時間がたったのかもしれないし、あるいは、まったく時は進んでいないのかもしれない。
全ての感覚があやふやで、何一つわかるものがない。
女の人の泣き声はいつの間にか聞こえなくなっていた。
そんな時に現れた、一つの灯。
──なんだろうあれは…?
じっと目を凝らして見ていると(目があるのかどうかも分かんないからこの表現はおかしいのかもしれないけど)、どうやら灯は一つじゃないようだった。
いくつかの灯が密集してゆらゆらと揺らめいている。
さしてすることもないのでぼんやり見つめていると、それはだんだんこちらに近づいて来ているようだった。
「チッ」
ずっと近くで、それも吐息がかかるんじゃないかと思うくらい近くで、誰かの舌打ちが聞こえてあたしは思わず悲鳴をあげそうになった。まあ案の定声は出なかったんだけど。
「もうバレたのか…!」
焦りを滲ませたその声に、あたしは違和感を覚える。
あれ、この声。
どこかで聞いたことが…。
なんだっけ。どこで聞いたんだっけ。
ちゃんと聞きたい、と思い耳を澄ませる。
もう一度聞けばわかる気がする。
だってもうここまで出かかっているんだもの。
この声は。