第9章 マリージョア
──誰かが泣いてる。
誰だろう?
「……っ…。…――……っ」
──多分、女の人だ。
うん、女の人の声だ。
どうしたの、どうして泣いてるの?
そう言おうとして、声が出ないことに気づいた。
出そうとするけど音が出ない、とか、そういうんじゃない。
そういうのじゃなくて。
“声を出す”という、その動作ができないの。
そしてあたしは気づいた。
そもそも感覚がないんだ。
体の感覚が。
声をだすのに必要な器官の感覚が。
そう。あたしには音を震わせる声帯も無ければ、声を響かせる口も無かったのだ。