第9章 マリージョア
「スモーカーさん、手配書には彼女の名前はありませんでした。相手は一般人の女の子なんですから、もう少し優しく聞いてあげてください!」
そう助け舟を出してくれたのは、スモーカーと呼ばれた男の隣にいるメガネをかけた若い女性。
腰に刀を差している。剣士なんだろうか。
あたしはその助け舟にこれ幸いと乗っかることにして、できるだけ悲壮感漂うよう涙ながらに訴えた。
「ほんとうに、ごめんなさい…っ。あたし、両親が新世界にいるんだけど、ずっと会えてなくて…っ。父さんと母さんに一目でも会いたくて、旅をしてたの…」
こっちも必死だから、演技にも力が入る。
我ながら迫真、だった。
「だけど、レッドラインを越える方法がなくて…っ。…ごめんなさい…」
眉尻を下げて声を震わせ、そして、最後にトドメとばかりに涙を一つ落とす。
"両親"じゃなくて"最悪の世代の大型ルーキー"っていうことさえ除けば、ほとんど嘘は言ってない。
こんな可哀そうな女の子をまさか海にほっぽりだすなんてことはしないでしょう!?
内心では叫びながら、よよ、と泣く。
だけど、スモーカー中将の眉間のシワはちっとも薄くならない。
「どこの島だ?」
「はい?」
「てめェの親はどの島にいるんだ」
う…。
あたしは言葉に詰まる。
だって新世界の島なんて一つも知らない。
くそう、一つくらい覚えておけばよかった。
グランドライン前半の海ではこの手を使うとき、「シャボンディ諸島」の一言で片付いたのに。
ど、ど、どうしよう。
困った挙句、
「わ、わかりません…」
あたしは正直に答えることにした。