第9章 マリージョア
「いやァ、しかし。あの冥王がこんなところにいるなんてなァ!!」
「あぁ、いつの間にか表舞台から姿を消したと思っていたら、まさかだな」
頭上で足音がする。
そして複数人の話し声。──海兵だ。
海軍船に飛び込んだ後、あたしは首尾良く船内に潜入し、船の下層部に位置する船倉忍び込んだ。それはもう忍者さながらにね。
そして、頭上を歩く海軍たちの会話を聞いて内心驚きながらも、密かにレイリーに感謝するのだった。
うまくいきすぎると思ったのよね。
レイリーが海兵を引きつけてくれたんだ…。
「一つくらいは手助けをって、これじゃ二つになっちゃったよ」
小さく呟きながら、荷物をぎゅっと抱えてもう一度耳を澄ます。
海兵はまだ真上にいるようだった。
「でも中将があっさり引き下がるなんて意外だったよな」
「馬鹿言うなよ。あの冥王だぜ?あんなバケモンと闘り合うなんて命がいくつあっても足りねェよ」
「お前、おれらの中将が負けるって言うのか?」
「そ、そうじゃねェよ。おれたちが追ってるのはあくまで"麦わらの一味"だ。寄り道してる暇はねェって言ったんだよ」
──そしてやっぱり。
この船が麦わらを追ってるのは間違いじゃなかったみたいだ。
あたしは読みが当たって、一人にんまりと微笑んだ。
船倉の中は積み荷が所狭しと詰め込まれていた。
あたしはその荷の僅かな隙間にすべりこんでいるから、かなり窮屈で、居心地は決していいものじゃない。
そのうえ埃っぽく、積み荷の木箱から漂う木材と床に染みついたカビの臭いが入り混じったような、なんとも言えない異臭がした。
だけど、そんな船倉でも、今のあたしにとってはそんなに苦じゃなかった。
物事が好転してきているのが分かる分、麦わらの一味と入れ違いになって打つ手が無くなっていた時より、うんと気分は良い。
さっきから強くなってきた地面の揺れから察するに、とうとうこの船も出港したようだし…。
このままこれに乗って行けば"新世界"に入れちゃうんじゃないの??
あたしはワクワクしながら薄暗い船倉で一人、その時を待つのだった。