第9章 マリージョア
あたし、アウラがビビとナーティと涙涙の別れをしてから──つまり、砂の王国アラバスタを出発してから、はや1年半が経過した。
はや、とは言ったけど、実際は、それはもう長い長い1年半だった。
それだけ長いと感じるのは多分、一日たりとも暇な日なんてなくて、毎日を生きるのに必死だったから。
今思い出してみても、あまりに濃ゆい日々に思わず胸やけがしちゃうくらいよ。
あたしはグランドラインを生き抜くために、ありとあらゆる手段を使って旅をした。
そして、一人ぼっちの旅ほど辛いものはない──この1年半でそれを嫌というほど思い知った。
独りが寂しいってのはもちろんそうなんだけど、ピンチになっても誰も救ってくれないのが一番辛かった。
考えがある、と不敵に笑う冷静な友人もいなければ、アタシがそれやる、と手を挙げる頼もしい味方もいない。
だからもう、恥も外聞も捨てて、がむしゃらに頑張るしかなかったのだった。
少年の格好で商船で働くのは慣れたものだったけど、それだけで切り抜けるにはグランドラインはあまりにも過酷で。
家族に会いたいと同情を誘って海軍船に乗せてもらったこともあるし、何の芸もできないのに旅芸人の一座に混ざったこともある。
(そん時は見様見真似で踊り子をやったんだけど、あれはもう二度とやりたくないわ。芸もそりゃひどいもんだったと思うけど、その前に、あんな着てるかどうか分かんないようなペラペラな衣装、心許なさすぎて終始落ち着かなかったんだから!)
それでもどうしようもなくなった時は、不退転の覚悟で海賊船に忍び込んだ。
今から思えばよくもまあそんな命知らずのことできたよね、と我ながら感心してしまう。命があるのが奇跡だよ、ほんと。
──とまあ、あたしの武勇伝を語りだせばキリがないんだけど、それはひとまず脇に置いておくこととして。