第8章 決意
会場は毎年の如く、すでに多くの人が集まっていた。
あらゆるところで屋台が開かれ、特設市場や大道芸人なども街を賑わしている。
俺たちは屋台で適当に食べ物を買いながら、その時を待った。
特に願い事はないが、ロータスの花を浮かべるのは慣例のようなものなので友人と一緒にそれも買う。
さほど時を待たずして、人々のざわめきが大きくなるのが分かった。
──あぁ、来た。
俺は出来るだけ人混みを避けるようにして、少し離れたところから見守る。
ガチャ
と、ドアが開いた。
まず華奢な足が見えて、次いで真っ白なドレスを身にまとった少女が降りてきた。
俺は思わず息を呑んだ。
ヴェールをしているせいで、ここからでは顔は見えない。
だが、なんだろうこれは。
彼女自身から光が放たれているのかと思うほど、俺には周りの景色から浮いて見えた。白い衣装を着ているから余計なのかもしれない。
ブルーロータスを神聖なもののように捧げ持ち、人々の間をゆっくりと歩いていく少女。
その間、誰も声を発さなかった。
いや、発せなかったと言う方が正しいかもしれない。
かく言う俺も、今見ているものが本当に実在する人物なのかそれすら疑う始末だったのだから。
彼女は周りの空気に気づかないように、人々の間を通り抜け、川のほとりに佇んだ。
神への謝辞を述べるその声は涼やかで、されど凛としていて、その声を聞いて初めて俺は彼女がそこに存在することを認めたのだった。