第8章 決意
「とても綺麗な人だね…」
俺の隣からほうっとため息をつく友人の声が聞こえた。
それに上の空で返事をして、尚も彼女を見つめる。
この目に写せるなら、いっときも視界から外したくなかった。
彼女がロータスを浮かべようとしたその瞬間、一陣の風が吹いた。
風に吹かれて舞い上がるヴェール。
今までヴェールに隠れて見えなかった彼女の姿が人々の前にあらわになる。
線の細い体と、透けるように白い肌。
月の光を閉じ込めたような不思議な輝きを秘めた、銀色の長い髪。
──その時、空を見上げた彼女の姿をきっと俺は一生忘れないだろう。
見開かれた瞳には澄んだ朝の海のような煌めきが宿っていた。
見上げる横顔にやがてほんのりと笑みを浮かべる彼女。
求めるように。
愛しむように。
そして切なげに。
──それはまるで、恋をするロータスの乙女のようだった。