第8章 決意
あっ、と思った時にはもう遅かった。
一陣の風が吹いて、あたしがかぶっていた薄いヴェールと青い花の髪飾りを掻っ攫っていってしまったのだ。
舞い上がる銀色の髪。
あたしは思わず上を向いて、飛んでいったヴェールを目で追った。
風に吹かれてどこまでもふわふわと飛んでいく。
青い空。
青い花。
青い海。
────全部、青。
それを見ていると、どうしてだか自然と笑みが溢れた。
頭の中にも風が吹き抜けたみたいに、すっきりした気分になる。群衆も、もうさほど気にならない。
──あぁ、あたしはこんなにも自由だった。
今まで気づかなかったのがバカらしくなるほど。
視界に広がる青を見ていると、なぜだかそんな風に思えた。
そして、この広い空のどこかにいる彼を心の中に思い浮かべる。
あの時。
海賊船の中で死を覚悟した時。
あたしは一度気づいたんだ。
だけど、そっと知らないふりをした。
気づいても仕方のないことだから、誰にも気づかれないうちに想いに蓋をして、心の奥に閉じこめた。
──だけど、その想いを今なら。
これが女神の祈りなのかなんなのか、それは分かんないけど。
今なら、何の躊躇いもなく認めることができそうだった。
すぅ、と息を吸う。
────好きだよ、ロー。
ブルーロータスの花は、サンドラ川を下ってやがて海に出るのだろう。
あの広い、大海原へ。