第8章 決意
次の日。
ビビが朝からやってきた。
「アウラ、起きてる?医者ももう動いていいって言ってたわ。さあ、街へ行きましょう!」
張り切るビビに、半ば引きずられるように身支度をする。
男物の動きやすい服が良かったけど、ビビが着るように指示したのは太ももまでスリットが入った丈の長いワンピースだった。
気温の高いアラバスタらしい薄手の生地に、片側の肩から斜めにワンショルダーのデザイン。
肩の部分は薄い青色のブローチで止め、腰は細い金色の紐で2、3重に巻いて、余った分はリボン結びをして垂らす。
おまけに長い髪を結いあげて後ろでポニーテールにしてくれた。
あれよあれよと言う間に着飾られたあたしは、鏡を見て呆然と立ち尽くした。
「こんな格好したことないんだけど…」
頭を占めているのは、"転けないか"というその一点のみ。
王宮にある服なんだから、あたしみたいな庶民には手が出せないような高価な代物に違いない。
こんな素敵な服を着せてもらって転けて破ったらどうしよう…!?
そんなことばかり考えていたあたしは、着付けてくれた侍女のテラコッタさんとビビが口をぽかんと開けていることにしばらくの間気づかなかった。
「これは驚いたね」
「あなたってほんとに…」
…どうしたの。
2人ともそんな間抜けな…いえ、びっくりした顔をして。
きょとんと目を瞬かせると、ビビが何でもないわと首を振った。
「そのままじゃ目立っちゃうから、これを上から着てちょうだい」
そう言って渡されたのはフード付きのローブ(これもかなり薄手のもの)。
ビビが目立つといけないとは分かるけど、あたしもこれ着るの?
余計動きにくくなりそうで思わずためらったけど、有無を言わさず渡してくるので結局黙って受け取る。
…転けないようにしないと。
あたしはますます緊張してゆくのだった。
「病み上がりだし、あんまり遠くへ行くのは心配だから、まずは城下へ出ましょう」
そう言ってお揃いのお忍びスタイルで先を歩くビビに手を引かれ、あたしは数週間ぶりに外へ出た。