第1章 夢
街路の灯った街を抜けると、ほとんど辺りは真っ暗だった。ゆっくりしすぎたかもしれない。
みんなお腹を空かせて待っているだろうなと思うと早く帰りたいけど、さすがに1日の疲れがどっときて台車を押しながら走る気にはなれない。
ガラガラと音を立てながら歩いていると、やっぱり思い出すのは今朝の出来事とさっきの会話。
最近、シスターのところにあたしの結婚話がちらほら舞い込んでくるらしい。
今年で17をむかえる娘にとっては別に早い話ではない。
小さな島だし、"いいとこ"の子供との結婚を早く決めておきたい親も大勢いるから、生まれたと同時に親同士が決めた許婚がいるってのもたまに聞く。
だから、いつ結婚を決めようが別に早いとも遅いとも思わない。
でも。
それは他人の話であって、自分の話となるとまったくの別よ!
あたしは結婚する気なんてさらさら、これっぽっちもないんだから!
「そもそも、いいとこのお嬢ちゃんならまだしも教会の孤児と結婚したいなんて物好きはどこのどいつ!?自分のことだからこの際言わせてもらうけど、おまけに男装癖あり、洒落っ気なしってどう考えても事故物件でしょう!」
思わず声に出してぶつぶつ言ってみるけど、いるんだよなー、そんな物好きがこの島には何人も。
しかも、確定じゃないけど今朝の様子を見るとそのうちの一人があの赤頭のいじめっ子だ。
そりゃどういう風の吹き回し?とでも言いたくなる。
とにかく、あたしは絶対に結婚しないぞ。
海に出ず、結婚して、ここで一生暮らす??そんなの、全然自由じゃない。
「…全然自由じゃないよ」
なんとなく見上げると大好きな島と同じ形の月と目が合った。
シスターと子供たちの待つ教会まであと少し。