第1章 夢
アイツ、あたしが今日朝遅刻してるの知ってたの…。
ん?と言うことは。
あたしが通るのずっと待ってたって、もしかしてそういうこと!?
うわ。うわわわ。なんだ、これ。
すごく恥ずかしい。
「別に、ただ見てただけ!」
もっと否定したかったのに、バカ正直な性格が邪魔をしてそれだけしか言えない。
帰り際、あたしの大量の買い出し物を見たメリダさんは店横に立てかけてあった台車を気前よく貸してくれた。
また返しにきたついでに話聞かせてちょうだい、なんて言うもんだからとっさに断ろうと思ったけど、あれよあれよと言う間に台車に荷物が積み込まれていて、この人には一生勝てそうに無いなと諦めた。
最後にお茶目なウィンクとともに、サービスと言って熟れたりんごを2、3個つかんで台車の中に放り込まれる。
ほんとに、敵わない。
ありがとう、とお礼だけ言って、熱くなってきた頬がバレないようにあたしは逃げるようにその場を立ち去ったのだった。