第8章 決意
また静寂が訪れた。
窓から差し込む日差しは西日になっていた。
オレンジ色に照らされる室内。
カーテンはもう、揺れていなかった。
「嘘だよね、マリー…」
今度はどこからも返答はなかった。
あたしの言葉だけがオレンジ色の中に宛もなく漂ってやがて消える。
マリー、あんたはどうするつもりだったのよ。
あの時、何を考えていたの。
『全部記憶を取り戻したら、また会おう』
なんて、今時ヒーローでも言わないよ、そんなキザなセリフ。
あたしは何を忘れてるっていうの?
前に、あなたに会ったことがあるの?
ねぇ、教えてよ、マリー。
ふとベッド脇のテーブルを見ると、そこには彼がくれた唯一形に残るものがぽつりと取り残されたように置いてあった。
『ああ、これ?…欲しいならあげるよ』
初めて会ったときにそう言って差し出してくれた、黒いキャスケット帽。