第7章 最悪と最善
あたしはただ、マリーの綺麗な顔が近づいて、長いまつ毛が伏せられるのを呆然と見つめていた。
唇に当たる、柔らかくて少し冷たい感触。
触れたところから、熱が奪われていくようだった。
離れた唇の隙間から、どちらとも分からない、微かな吐息が漏れる。
マリーと至近距離で目があって。
その瞳が薄紫色に妖艶に揺らめいて見えて。
そして、そっと腕を離すと、彼は何事もなかったかのように、にこりと笑った。
「全部記憶を取り戻したら、また会おう。
”―――――――”」
最後にそんな言葉を残して、彼は、あたしを強く押したのだった。