第7章 最悪と最善
自分のしぶとさに半ば感動しながら、まわりを見回す。状況は依然よくわからなかった。
マリーがここにいるってことは、みんな無事逃げられたんだろうか。見たところ、海賊たちは海軍の応戦に必死って感じだけど。
あとはマリーとあたしだけってことでいいのかな。
「混乱してるところ申し訳ないけど、時間がないから」
マリーはやっと立ち上がったあたしに状況を聞く間も与えない。ますます混乱するばかりだ。
そしてさらに驚くことに、
「え、ちょっと」
突然何を思ったのかマリーはあたしをひょいと船べりに抱え上げたのだった。
薄い金色の髪が少し下に見えて、前髪の隙間から綺麗なグレーの瞳が覗く。
「君は泳げないと思うけど、すぐ下にボートがあるから。ナーティが引き上げてくれるよ」
え、なに。
急に何を言ってるの、マリー。
だって、その言い方、まるで。
「マリーも一緒でしょう?」
あたしは困惑してマリーの腕を掴む。
マリーの表情からは何も読み取れない。
なぜだか分からないけど、急にマリーが全く知らない人のように見えた。
いつも目を細めて笑ったり、呆れたように眉をひそめたりコロコロ変わる表情も、今はとても真剣で。一つもふざけてなくて。
それがなんだかとても不安になる。
──ねぇ、何か言ってよ。
そう言おうとした時、マリーの手がゆっくりあたしに向かって伸ばされた。
ひやり、と冷たい手が頬に触れる。
「死ぬくらいだったらそれ、外しなよ」
小さく呟いて──そのまま、頬に触れていた手をあたしの首の後ろに回して。