第7章 最悪と最善
…何で、今、こんなに心が苦しいのか。
その理由にたぶん、あたしはもう気づいてる。
ローがあたしの知らない誰かのことを思い出して、切なそうにするのがつらい。
…そして。
ローが何も言わずに、何も気にせずに、あたしを置いて去って行った事実が、つらい。
あたしは、やりきれない思いでローの顔を見つめた。あたしの知らない誰かのことで心を痛める、その人を。
今、どこで何してるかも分からない。
あたしが死にかけてる時にそれを知りもしない。
そんな薄情な人。
……あなたは、あの小さな島で一人、泣いて暮らした女の子がいたなんて。
あの後何度もあなたを探して森に入った女の子がいたなんて、想像もしなかったんでしょう。
ずっと、あたしがあなたを忘れられずにいただなんて、そんなこと、考えもしなかったんでしょう。
今目の前のこの人に、置いていかないでって言って引き留めれるなら、喜んでそうする。
だけど、そんなことしても意味がないってことはあたしが一番知っていて。
だって。
この人は何も言わずに去ってしまったんだもの。
ローにとっては、あたしとの別れなんてちっとも苦しいものじゃ無くて。
あたしの存在なんて、ちっぽけで、取るに足らない、どうでもいいものだったんだって。
あたし、あの後何度もそう思って。
ほんとに何度も何度もそう思って。
その度に、心がちぎれそうなくらい、苦しくなったの。
胸が締め付けられて、死んじゃうかと思ったんだから。
…この気持ちが何なのか、あたしはきっと、とうの昔から知っていて。
だけどずっと、気づかないフリをしていたの。