第7章 最悪と最善
…なんでだろう?
あの時は何も思わなかったはずだから、これは"今"のあたしの気持ち?
ローと目が合う。
彼は何も言わなかったけど、その金色の目は肯定を示していた。
──その人はどんな人なの?
って、気になったのに、あたしは聞けなかった。
…たぶん、回答によってはもっと心が痛くなりそうだったから。
「あの人がおれを全てから解放してくれたから、おれは誰より自由で在りたい…いや、そうでなきゃいけねェ」
そう話すローの目にはさっきまでの翳りはなくて。ただ、どこまでも真っ直ぐな強い意志が見えた。
あたしはそんなローの目を見て、何となく、その人はもうこの世にいないんじゃないかと思い至った。
当時はフレバンスの話あたりから理解できないことが多くて、ローは家族も友達もいなくなっちゃったんだってことくらいしか分からなかったけど。
今なら、分かる。
その人はローを救って、いなくなってしまって。
そしてたぶん、ローはその人にもっと生きていてほしかったんだ。
もっと。これからもずっと。
…彼は、その人と一緒に、生きていきたかったんだ。
──あたしに出会う前の、ローの話。