第7章 最悪と最善
「……おれの生まれた国は白くて美しいところだった」
その王国の名は、フレバンスと言った。
童話の雪国の様に、地面も草木も真っ白な国。
ローが言うように、それはそれは白くて美しい幻想的な国だっただろう。
だけど。
──その美しさは「珀鉛」という毒から生まれたものだった。
珀鉛は人体に影響を及ぼす。体に溜まると、肌や髪が白くなり、全身の痛みを伴ってやがては死に至るという。
「──その病気は『珀鉛病』と呼ばれた」
そう淡々と話す彼の顔色に変化は無かったけど、あたしはその目に翳りがあるのを見逃さなかった。
…そう。
だってこれは、彼の白くて美しい故郷の、暗い過去の話だから。
あたしはもう、それを知っていたから。
『珀鉛病は感染る』。
そう思い込んだ近隣諸国は罹患したフレバンスの民を迫害した。
そして、その迫害に武器を持って対抗した白くも美しい王国は、弾圧という大義名分を得た近隣諸国によって滅ぼされたという。ローの家族も友達もすべて巻き込んで。
彼はそのフレバンス王国の最後の生き残りだった。
「おれも珀鉛病の患者の一人だった。…だが、救ってくれた人がいた」
そう話すローは、初めて会った時の、あのどこか切なくて苦しそうな、そんな目をしていた。
「その人は、ローの大切な人なんだね」
言って、それからちょっと心が痛くなる。