第7章 最悪と最善
頭が冷えた。
あたしは今、命のやり取りをしてるんだから。
フラフラしながら立ち上がると、次の紐が伸びてくるのが見えた。
咄嗟に横に転がって避けるけど、さっきの攻撃があるだけに避けただけではだめだ。
動いたせいで脇腹から血が噴き出たのが分かったけど、歯を食いしばって耐える。
──距離をとっていては不利なだけだ。
あたしは思い切って相手に向かって突進した。
伸びてくる紐は身をかわして避ける。
あと一歩で相手に拳が届く…!
そう思ったその時、腕にまた例の紐が巻き付いて。
まずい、と思った時にはもう遅かった。
──次の瞬間、あたしは甲板の端まで一気に吹っ飛ばされたのだった。
「…つぅ…ッ…」
船べりにめり込むぐらい体を強く打ちつけて息が詰まる。一瞬、視界が白く弾けた。
体の内側から吐き気が迫り上がってきて、思わずそれを吐き出す。──血だった。
頭が痛い。体が痛い。
目の前がチカチカする。
指の先すら動かせる気がしない。
ぶつかった時に切ったのか、口の中いっぱいに広がる鉄の味。咽せ返るような血の臭いが鼻の奥を突き抜ける。
息をするたびに喉の奥でひゅーひゅーと空気が擦れる音が鳴った。