第7章 最悪と最善
「やってくれるじゃねェか」
聞いたことのある汚いしゃがれ声。
「…どこで何やってんのかと思ってたんだよね。やっとお出まし?」
「「「船長!!」」」
海賊たちのなんとまあ嬉しそうな顔。あんたたち、こんな小娘にしてやられて悔しくないの?
半ば呆れながらも、そんなこと思ってる場合でも無くて、あたしも遅れてやってきた目の前の敵──この海賊船の船長に向き合う。
ちらりと見ると、救命ボートがようやく一隻出発したところのようだった。あと数分、時間稼ぎができれば上出来。うん。
あたしにはまだ余裕があった。一ヶ月前、まぐれとは言え2発も蹴りが入った記憶が鮮明だったから。
「お前、能力者かァ?変な力使うなよ~」
多分、奴も船の修理の時のあのひと悶着のことを言ってるんだろう。
おあいにく様。あたしは能力者でもなければ、変な力も持ってない。この間のあれはあたしにも分かんないんだから。
そうは思うものの、変な力を持っていると思ってくれた方があたしもやりやすい。
「さあね。自分で確かめれば?」
ためらってくれている間に、じりじりと距離を詰めて、間合いを測る。
あたしは長ものや飛び道具を持つ戦闘スタイルではないから、基本的に間合いは近くなる。
だけど敵は例の能力があるから間合いなんて関係ないはず。どこからでも攻撃可能だ。
あたしにとってはかなり不利な状況。
だからせめて、自分の攻撃が届く範囲まで近づいた方がいい。
と、思ったんだけど。
先に動いたのは向こうだった。