第1章 夢
でもここで働くと、1日の終わりにみんなが読み終わっていらなくなった分が一部もらえることがある。
それを寝る前に読むのが港の1日の最後の楽しみだった。
仕事終わりに配られた、今日1日分の賃金がしまいこんであるポシェットの中に、もらったばかりの世経も丸めてつっこむ。
「ありがとう!じゃあまた!」
無意識に、今日一番の笑顔がこぼれた。
これのおかげでまた寝るまで楽しみが続くんだからね。やっぱり港の日は最高だなぁ。
にまにまと笑顔がこぼれ落ちそうになるのを止められず、だらしない顔で歩いていると通りすがりに声がかかる。
「トラ、次の商船は明日だぞ。また寝坊するなよ」
「任せてよ。明日は寝坊しないよ!」
明日も世経あるといいな。
ポシェットに詰め込んだ幸せを落とさないように大事に抱えながら、あたしは夕刻あちこちでいい匂いが漂いはじめるアルメリアの街を歩くのだった。