第1章 夢
お昼ご飯は商船の荷物の中からいくらかまかないが出るからその分教会の食費も浮くし、一日働き終えると日雇いの賃金もくれる。まさに文句なし、よ。
そして、あともう一つ。
「おっちゃん!!『世経』ある!?」
夕方、ほとんどの荷物を積み終わって港の人もまばらになってきたころ、あたしは甲板でキセルをくわえる乗組員に声をかけた。
「んぁ?あートラか。今日はあったけかな」
乗組員はよっこらせともたれかかっていた背を起こして、しばらく奥に消えると、右手にぐしゃぐしゃの紙束を鷲づかみながら戻ってきた。
「あったぜ。ほら」
港の石畳に立つあたしにぽんと放る。
あたしは間髪入れずそれをキャッチした。
世界経済新聞、通称「世経」。
世界中のありとあらゆる場所で起きた事件・事象を、主観混じりの文章や写真で人々に発信している。おそらく現代で一番メジャーな情報新聞だ。
どこそこで海賊が暴れた、とか、なにがしの海賊を海軍が捕まえた、とか、聞けばワクワクするような内容がてんこ盛りなんだけど、この小さくて平和な島では特に関係ない情報が多いから購読している人は滅多にいない。
自分で買ってもいいけれど、お金を使うくらいなら子供たちにいい物を食べさせてあげたいからずっとがまんしていた。