第6章 海賊
こんな状況なのに、自分でも驚くほど冷静で、恐怖もなかった。
あの雪の日はあんなにガタガタ震えていたのに。
襲撃された時も、結局何もできなかったのに。
──こいつらにとって人の命は虫けらと一緒。
殺すことに一切躊躇がないの。罪悪感もないの。
そのことを、あの雪が、燃え盛る火が、教えてくれたの。
殺らなきゃ、殺られる。
ここはそういう世界だ。
あたしが追いかけている、あの人がいるのは、
──そういう世界だ。
ひとつ、息を吐く。
我慢できないと思った。
あたしはこんなところで死ぬつもりはないし、目の前でいたずらに虐殺が繰り返されるのを黙って見ているのも、もうごめんだ。
こんな奴らに、命を好き勝手にさせてたまるか。
「放せっつってんだろ」
自分でもびっくりするくらい、冷めた声が出た。
あたしは今、心の底からこいつを憎んでいる。
───殺してやりたいくらいに。
そう思うと同時に、紐が絡まってない方の足で思いっきり奴の腕を蹴り上げた。
銃が奴の手から離れ、宙を舞う。
一瞬たじろいだのを見逃さず、続け様に脳天にもう一発お見舞い。
上から降って来た銃をキャッチすると、足に絡まっている紐に狙いを定めて3発ほど撃ち込んでみた。
「あれ、なんだ。これ、連発できるんだ」
これが回転式拳銃(リボルバー)ってやつか。
冷静にそんなことを考えているうちに、奴の紐が銃弾で溶けて、やっと足が解放される。
地面に着地するや否や後ろに飛び退き、距離を取ってからもう一度リボルバーを構えた。
撃っても意味ないんだろうな。能力者だし。
なんて思いながらもトリガーに指をかけて。
──そしてようやく周りが視界に入った。