第6章 海賊
あたしに与えられた仕事は、すっかりはげ落ちた甲板の塗装だった。
裸足になってズボンの裾をたくし上げ、ペンキを持つ。
一度、教会の外壁を塗り替えたことがあるから、こういうのは結構得意だ。
不自然にならない程度に仕事を進めながら、注意深く辺りを観察する。
船長は探さなくてもすぐ分かった。
子供に"海賊船の船長"の絵を描いてと言ったら10人中8人は描きそうな風貌。
マリーの胴回りくらいありそうなごつい太ももに、丸太のような腕。これ見よがしに三角帽子をかぶり、瓶に入ったお酒をラッパ飲みしながらでかい図体でのしのし歩いている。
眼帯までしてるし、どう見てもあれが船長よね…。あんまり頭は良くなさそう。これは偏見だけど。
さり気なく近づきながら、まずは両腕にログポースがないことを確認する。
あとはエターナルポース。
どうやって確認しよう…?
ちらちらとタイミングを伺いながら、運良くコートを脱いでくれないかななんて考えてみる。
ふと、さっき別れ際のマリーの言葉を思い出した。
『──それと、船長の方は能力者の可能性があるから気をつけてね』
能力者って、つまり、悪魔の実の能力者ってことよね。あのずんぐりが…?
あたしの知ってる能力者ってローくらいなもんだから、何となくカッコいいイメージがあったんだけど。
お世辞にもカッコいいとは言えない風貌に、果たして本当に強いのかしらなんて疑問に思う。
──そう、この時はまだ余裕があったのよ。
なにしろあたしは敵の強さも分からないような若輩者だったから。