第6章 海賊
「越えたみたいだな…」
隣からナーティの声がした。
はっと気がついて顔を上げると、確かに揺れがおさまっている。
かなり時間が経った気がしたけど、もしかするとそんなに経っていないのかも知れない。
「グランドラインに出ちゃったの…か」
呆然とした気持ちでつぶやく。
外に出て確かめたかったけど、起こした体のあちこちが悲鳴を上げていてとても立ち上がれそうになかった。
「みたいだね」
マリーの声がしたと思ったら、頭に重みがきた。優しくぽんぽんと2回ほど手を置いて、少し笑うマリー。
「助かったよ、ありがとう」
「トラ、ありがとう」
ナーティも少しはにかんでみせると、初めてあたしの名前を呼んだ。こんな風に笑ってるところも初めて見たかも。
あたしも精一杯の笑みを返す。
「とりあえず、2人とも無事でよかった」
マリーに支えられてなんとか体を起こして、周りを見回す。
皆うめいたり体をさすったりはしているけれど、どこからも悲痛な泣き声は聞こえてこなかった。
……よかった。全員、無事みたい。
とりあえずほっと胸を撫で下ろす。
状況は決して良くはないけど、まだ最悪ではない。そう自分に言い聞かせていた時。
「さて」
マリーがおもむろに口を開いた。振り返ると微かに口元に笑みを浮かべるあたしの友達。
「海上では脱出は不可能だったけど、陸地ならおれたちにも勝機があるかも知れない」
「どういうこと?」
「──おれに考えがあるってこと」
きょとんとするあたしを見て、マリーは不敵に笑ったのだった。