第6章 海賊
……何回も、何回も思ったことだけれど。
改めてもう一度言わせて。
「あたしは、国内の、ほんの数日で行ける島へ、ちょっとお届けしに行くだけ、のはずだったのに!!」
あれから数日経った。
あれから、というのはもちろん野蛮な海賊どもの襲撃から、だ。
「んなデカい声だすなよ。あいつらに殺されてもしらねぇぞ」
そう言って呆れた顔をしているのはいつか話したディーラーの少女だった。
──あの忌々しい日。
海賊に手を縛られ、大人しく船頭まで出ていくと、商船と同じくらいの巨大な海賊船が商船に衝突する形で横付けされていた。
そして、運び込まれる積荷とともに、マリーとあたしと、女子供と少しばかりの男たちが海賊船に連れて行かれたのだった。その中に、このディーラーの少女もいた。
海賊どもは一通りの荷物と人を運び終えると、何でもないことのように──そうあることが自然かのように、あたしたちが乗ってきた商船を爆破した。
燃え上がる炎。
沈んでいく船。
それらを目の前で見て、あたしは声すら出なかった。
分かったのは、あそこに残った人たちのことなど、こいつらにとっては虫けら同然なんだ、ということ。
取るに足らない、日常の一コマのような、そんな感覚で。大勢の人の命を奪う海賊たち。
海賊というものをあの教会の事件でよく分かったつもりでいたけれど、目の前で残虐非道な行いがされることには、あたしはどうしても慣れることができなかった。
短い期間だったけれど、親切にしてくれた商船の人たち。そんな人たちを船ごと飲み込んで燃え盛る火。
人々の怒りと哀しみの声が、聞こえた気がした。
──燃える商船を見て、
「……してやる…」
あたしは、人知れず唇を噛み締めた。
やがて、海がそれら全てを無に返していったけれど、あたしの中の怒りの炎だけが鎮まりそうになかった。