第6章 海賊
立つと吐き気が少し収まった気がした。気持ちも少し前向きになって、状況を考える余裕ができる。
…まだ、見つかったのはこいつだけよね。
ひょっとすると、こいつだけならあたしでも倒せるかもしんない。
だんだん頭の中がクリアになっていく。
このまま捕まるのは嫌だ。
何か抵抗しないと気が済まない。
何もしないまま易々と捕まるなんて、そんなのは絶対にごめんだった。
雑念が消え去って。
──目の前のこいつを倒す。
それしか考えられなくなって。
ぐっと拳を握りしめて一歩踏み出そうとした、その時。
隣から何かがそっとあたしの手を包んだ。
──マリーの手だった。
「他にも大勢いる、どっちにしろ見つかるよ。やめた方がいい」
あたしにしか聞こえないくらいの小さな声で囁く。彼はどこまでも冷静だった。
闘争本能が頭をもたげていただけに、不完全燃焼感が否めないけれど、やる前からあきらめんの!?とはさすがに言えなくて。
確かに、こいつを倒してもキリがない。
あたしにもそれが分かったから。
ここから見て、海賊はざっと20を超えるくらいはいそうだった。
これを全員倒す自信なんて全く無い。
あたしはふっと全身の力を抜いて、大人しく両手を上げた。
ひとつ大きく息を吐く。
……降参だ。
──ミドル王国本島を出発、スワロー島へ向かう途中。
マリーとあたしは海賊船の捕虜になった。