第6章 海賊
何?なんて思う前に、
──聞こえてきたのは男の声。
「なんだ〜〜??ボウズ2人か」
上を見上げると、ニタリ、歯茎まで見せて笑う男。黄色い歯がてらてらと光っていた。
「しかもどっちも上玉ときた。儲けもんだぜこれは」
怖い、いやそれより気っ持ち悪い…!!
覗き込む男の吐息が頬にかかり、あたしは背筋に寒気が走るのを感じた。
近寄んないで!って叫びたい気分だったけど、残念ながらあたしにはそこまでの度胸がなくて。
マリーの服にぎゅっとしがみついて、ただただ上を見上げるしかできない。
吐き気を我慢しているせいで涙がこぼれそうになる。
そう、吐き気のせいだから。
断じて、怖いからではない。
自分に言い聞かせて必死で男を睨みつけている、と──。
「仕方ないね、出ていこう」
ずっと近くから涼やかな声がした。それはもう、友達に呼ばれたのかと思うくらい軽やかな調子で。
あたしはぎょっとして隣のマリーに目を向ける。
…な、んであんたはこんな時までそんなに余裕なの!?それに、出て行こうって…。
驚きが隠せないけど、でも今はその普段と変わらない様子がありがたかった。
マリーが平気な顔してると、そんなにひどい状況じゃないんじゃないかとさえ思えてくるから不思議だ。
あたしは吐き気と涙をぐっとこらえて、マリーにすがって立ち上がった。