第6章 海賊
ぐわんぐわんと続いていた揺れがおさまると、次いで何人もの人がドタバタ走り回る音が聞こえた。人々の悲鳴と狂気の歓声が交錯する。
そしてその騒音の中、白髭、だとか、新たな時代、だとか、そんな言葉が飛び交っているのだけが、あたしの耳に鮮明に届いた。
──何が起きている…の?
どこの誰が、何人、どんな風に。詳しい状況が分からないから、怖さが募る。ぎゅっと目を閉じて、過ぎ去ってくれるのを待つしかない。
無意識にマリーの服の裾を掴んでしまっていたことに気付いたけど、今更離す気にもなれなかった。
「抵抗する奴は殺せぇ〜!連れてくるのは金になりそうな奴だけだぞ〜。積荷は全部持ってこい!」
間延びしたしゃがれ声が誰かに命令するのが聞こえた。耳障りなその声が、なぜだか知らないけどよく通っていた。
──ブシュッ ビチャッ
水が飛び散る音。悲鳴。
……いや、違う。
水じゃない。これは。
あたしの頭の中で赤と白がチカチカ瞬いた。思い出したくもない記憶がまたフラッシュバックする。
同時に、お腹の底から不快感がせり上がってきて、あたしは思わず口を抑えた。
「うっ…」
ああもう。なんて情けないのあたしは!
いつもの威勢はどこよ、しっかりしなさい!
何度も生唾を飲み込みながら、自分を叱咤して必死で吐き気をこらえていると。
──不意に、マリーとあたしの上に暗い影が落ちた。