第5章 時代
甲板をてくてく歩きながら思う。
やっぱりあたしはこうやってのんびり潮風に当たってる方が好きだ。ギャンブルなんてしたら心臓が痛くてどうにかなっちゃうに決まってる。
何も考えずに歩いていると、気づけば船首近くまで来ていた。立ち止まって、船べりにそっと手を伸ばす。
どこまでも青い海が見えた。
そして同じくらい青くて広い空も。
絵に描いたような入道雲がもくもくと浮かんでいる。
今乗ってる船が、この広い海をかき分けてぐんぐんとミカヅキ島から離れて行っていることが不思議だった。
なんでこんなことになったんだろう。
ほんの1週間の旅のはずだった。パール島に向かって、ジョナサンを預けて、何事もなく家路に着く。そんな、何でもない旅。
それが今は、生まれ育った島どころか、王国まで出てしまって。
シスターと子供たちは大丈夫かな。
なかなか帰ってこないあたしを心配しているかもしれない。
そう思うときゅっと心臓が苦しくなったけれど、連絡手段が無いことにはどうしようもない。何か伝えるものがあればいいんだけど。
ぼんやり空を見つめながらそんなことを思い。
…ん?連絡手段?
「電伝虫!」
思わず大きい声を出してしまって、あたしは慌てて口を押さえる。
なんで忘れてたんだろう!
こんなに大きい商船なんだから、無いわけがない。
思いつくと、急いで甲板を走り抜けて、船内に飛び込んだ。
今まで忘れてたくせに、思い出すと気持ちが急く。
みんな、心配してないといいけど。
少しでも声が聞きたい。