第5章 時代
「おいボウズ、また勝ったのか!?」
突然、ひときわ大きな歓声が上がった。
何事?と思って少し覗いてみると、人々の輪の中にはいつの間にか他の人からお金を回収するマリーの姿。
「やあ、どうもどうも」
朗らかに微笑みながら、自分の席に戻るとあたしに向かってピースしてみせる。気づけば、マリーの隣には大量のお金が山積みになっていた。
なに、それ。船に乗ってから熱心にしてるなと思ってたけど、そんなに勝ってたなんて知らなかった。
「にーちゃん、あんたすごいね。このゲーム、はじめてだろう?」
ディーラーも関心したようにマリーに声をかける。
ベリーショートの髪に、健康的にこんがりと焼けた肌。翡翠のような深緑の瞳が印象的な、あたしと同い年くらいの少女だった。
マリーはちょっと照れたように頬をかく。
「おれ、昔から運だけはいいんだよね」
運がいい、とかのレベル?
マリーの横に積まれたお金を見ながらあたしは怪しく思う。
「あんたまさかズルしてないでしょうね」
服の裾を引っ張って小声で聞いてみると、マリーはブンブンと首を振った。
本当に?
必死に否定する様子がますます怪しく思えて、ますますじっとりマリーを睨む。
「アハハ。にーちゃん…と思ったけど、あんた、女か?」
少し目を見開く少女にあたしは苦笑いだけ返す。おつるさんの時といい、男の格好をしていても分かる人には分かっちゃうみたいだ。
「まあどっちでもいいや。アタシがちゃんと見てるからこっちのにーちゃんがズルしてるってことはないね。普通にやってたよ。ちょっと何も考えてないんじゃない?ってくらい普通に」
少女の説明を聞いて、あたしは目を丸くしながらもう一度マリーを見る。
マリーはほらね、と言わんばかりの自慢げな顔。なんとなくムカついてふいと顔を背けてやった。
そんな、野蛮なお金。
これは断じて負け惜しみではない!
「ねーちゃんも一回やったらハマるよ。気が向いたらやんなよ」
少女はにやっと笑いながらカードをパラパラとくった。さっきあたしがやらないって言ってたの、聞いてた顔だ。
まさか職にしている人に向かってもう一度、「誰がやるか!」なんて言えるわけもなくて、
「んー…考えとく」
あたしは曖昧に笑ってその場をそっと離れたのだった。