第5章 時代
「マリー、またやってるの?」
ふとマリーを探すと船の端っこに座り込んで他の乗客と話し込んでいた。マリーは船に乗ってから"良からぬもの"にハマっている。
「君も一緒にやる?」
そう言って無邪気な顔で笑うけれど。
「やりません!」
吐き捨てるように一蹴。
とんでもない。
あんなことにお金を使うなんて。
マリーがハマっているもの、それは一言で言ってしまえば、"賭け事"というやつだった。マリーは初日から暇さえあればずっと、ほんとにずーっとこれをしている。
教会で常にお金の足りなさに嘆いていた身としては、こんな遊びに使うなんてちょっと信じられない。
もちろん、勝てば元金が2倍にも3倍にもなるわけだけど、賭け事なんだからその逆もあるわけで。
そんな危ない遊びに、大切なお金を使えるわけがないでしょう。あたしは絶対にお断り、よ。
鼻息も荒く、対照的に明るいマリーを睨んでやる。
よくまあ、そんなに楽しそうにしちゃって。
参加者はそれぞれ好きな金額を賭け、大なり小なり声を上げながらゲームに興じていて。マリーもそのうちの1人だった。
ちなみに元手は服のボタンを売ったらしい。そのボタンがいくらで売れたのかは知らないけど、改めて見てみるとマリーはなかなか良い身形をしていた。