第5章 時代
結局、王都での生活をほとんど満喫できなかったじゃないの。次はいつ来れることやら。
深いため息をついて、じっとりとマリーを見つめる。
「まあ、元気だしなよ。せっかくの船旅だよ」
一体誰のせいだと…!!
叫びたくなるけど、確かにマリーの言うことも一理はある。
せっかくの船旅で不機嫌になっているのはもったいない。
……一生来れないわけじゃないもんね。
マリーゴールド教会ではシスターも子供達も待っている。
1日2日遅れたところで何も言われなかっただろうけど、早く会いたいのも確かだ。そう思うとやっと諦めもついた。
「そうだね。楽しまないと損だね」
最後にひとつだけため息をついてから、勢いをつけて立ち上がる。
よく見れば大きな商船だった。
甲板でせっせと舵を切る船乗りたちもかなり人数が多い。
その様子を見ているとだんだん気持ちが浮上してくる。前髪を撫でる潮風も心地良い。
元気を取り戻したあたしを見て、マリーも心なしかほっとしたようだった。
この人は天然なのかなんなのか。
もう振り回されるのは懲り懲りだと思う反面、どこか憎めないと思ってしまう。本当に困った人だ。
そんなことを考えながら、もうすでに甲板に興味を移しているマリーを追いかけた。
「ちょっと待ってよ!」
───この時あたしは気づくべきだったんだ…。
商船が普段見るものよりかなり大きいことに。
ミカヅキ島へこんな大きな商船が来たことがないことに──。