第5章 時代
出会ってからと言うもの、完全にマリーのペースにのまれている気がしてならない。
船の隅っこに座りながらむすっとして黙り込む。
そして、さっきトントン拍子でこの船に乗り込んだ経緯を思い返した。
「勘弁してよ、もう…」
あの後──。
マリーは意気揚々と港に向かうと、年老いた船乗りらしき人からミカヅキ島まで行く船をあっさりと聞き出した。
そして間も無く出発の時刻だと知るや否や、あたしの腕を掴み、そのまま教えられた船に乗り込んだのだ。
「ちょっと待ってよ!あたしまだここでいろいろ見たかったのに!」
思わず叫ぶあたしに、きょとんとした顔をするマリー。
「何を見るの」
「そりゃあいろいろよ。港の雰囲気ももう少し味わいたかったし、街だってちょっとしか周れていないのに。それに、マリーゴールド教会のみんなにお土産を買おうと思ってたのに、それも買えてない!」
思ったことをぶちまけて手を振り払う。
だけど目の前の青年は平然とした顔を崩さなかった。
「そんなのこの商船で買えばいいでしょ。金を出すって言えばちょっとくらい売ってくれるよ、多分。…それに、
───ほら。もう船は出ちゃった」
しれっと言ってのける。
そして言い終えたところで、出発を知らせる大きな汽笛が響き渡ったのだった。
ボォォォォォオ…
ゆっくりと岸から離れる船。
「そんな…」
嘘でしょう…。
あたしはがっくりと落ち込み───そして冒頭に戻る。