第1章 夢
そう、ここではあたしは「トラ」と呼ばれる。
一番初めに積荷下ろしに参加した時に今みたいな格好をしていたから、みんなあたしのことを少年と思ったらしい。
もちろん、狙ってそうしていたので不満はない。
名を聞かれた時に咄嗟に口を出たのが今の呼び名になっているの。
中にはもうあたしが女だと気づいている人もいると思うけど、みんな変わらず少年として扱ってくれる。
じゃあなんで男の格好をしているのかって?
それは働けばすぐ分かる。まあつまり、港ではこっちの方がなにかと上手くいくことが多いのよ。
1日で周る港が決まっているだけに、積荷をおろすのもあげるのも、できるだけ素早く行わなければならない。
だけど、中には大の男数人がかりで持ち上げるのがやっとという重さの荷もあり、そんな重量級の荷を持ち運びしていたら当たり前に事故も起こる。
死人が出ることは滅多にないけど、女子供が働いていい場所ではないことは火を見るより明らか。
だから、港は見渡す限り、男、男、男。の完全なる男社会で成り立っていた。
多分、少女として積荷おろしに参加したいと言っていたら、ここで働く気の良い男たちは絶対に首を縦に振らなかったと思う。
だから、みんなが気兼ねなく男として扱ってくれるように、見た目だけでもこんな格好をしている。
あたしもみんなと一緒に働けるぞ、という意思表示のつもり。