第1章 夢
船はすでに港に停泊していた。
これが遠い海の彼方に黒い点のように見えて、それがだんだん大きくなってくるのを見るのが楽しみの一つだったのに、今日は寝坊したせいでその楽しみを失った。
朝日を背にしてやってくるキャラック船のそれはそれは雄大なことといったらないのに。
街中も朝から活気があったけど、港はその比じゃない。なにしろ1日で一番人があつまる時間だ。
しかも週3回やってくる商船のうち、今日はミドル王国本島からやってくる日だから一番大きい船。
その分多くの人が積荷おろしを手伝う。
そりゃ港も活気立つってもんよ。
走り疲れて少し息を整えていると、遠くから声がかかった。
「よぉトラ!今日は遅かったな!」
筋骨隆々という言葉がぴったりの巨躯。
そしてそれに似合わない少年のような笑顔で男性がこちらに手を振っている。
「おっちゃんごめん!寝坊した!」
額の汗を拭って急いで駆け出す。
気持ち低めの声を出すのを忘れない。