第5章 時代
ミドル王国本島の港───。
それはノースブルー中の船が集まる交易の中心。
気持ちのいい潮風が吹く。
天気は良好。
「旦那ァ、この荷物はどっちの船ですか?」
新米の船乗りが俺に向かって叫んでいる。
箱の番号とリストを見ろ。
ちゃんと書いてるだろうが。
そうは思うものの、確かに俺も初めはリストの見方が分からなくて手こずったことを思い出し、仕方なく腰を上げる。
俺の若い頃と言ったらもう随分と昔の話になっちまったなと思いながら。
王国内を巡る船乗りになったのは、あの忙しなく動いている新米よりもまだ青っちい頃だった。
右も左も分からぬまま故郷の港で一番大きかったこの船の船長にクルーにしてくれと頼み込んだ。動機は海に出たい、それだけだった。
船で王国中を周る中、天候や航路、海図についても勉強し、船を御せるだけの知識を詰め込んだ。
するすると吸収していく俺に乗組員たちはよく色んなことを教えてくれたもんだ。
そして、船に乗って20年が経った時、当時の船長に船長を譲ると言われた。
船長になるということは乗組員の命を一手に引き受けるということだ。ただのクルーとは訳が違う。
その時には妻も幼い子供もいた。
一度引き受けるともう後には引けない。
だが、迷いはなかった。
──やってやろうじゃねェか。
自分の力を試してみたい。この船で。
このクルーたちと共に。
俺はおそらく海の上で一生を終えるだろう。
そういう予感があったし、それも納得できるくらいこの生活を愛していた。
一も二もなく受諾し、そして今も大海原に漕ぎ出る生活を飽きることなく続けている。
中にはグランドラインなんていう化け物どもの住処を征くヤツらもいるらしいが、俺にはこの生活で十分だった。
仲間と共に王国中の島々に荷を届け、たまに家族に会いに帰る。
なんて幸せな生活だと思っているし、だいたいの船乗りが同じように生活を営んでいるのも事実だった。