第5章 時代
「それは今から探すんだけど。でもその前に一回街に戻るつもり」
目の前の青年に会ってすっかり抜け落ちてしまっていたけど、もともとは帽子を買うために大通りに出たんだった。
今更な気もするけど、とにかく何か被るものを買いたい。
言いかけて、マリーがずっと左手に持っていたものの存在に気づいた。
少し不思議に思う。
なんで今まで気づかなかったんだろう。
彼が持っていたのは、黒いキャスケット帽。
ちょうどあたしが昨日までかぶっていたような。
「ああ、これ?」
マリーはあたしの目線に気づいて、何でもなさそうに手に持っていた帽子を差し出した。
「欲しいならあげるよ」
…ますます訳がわからない。
「あなたが被るから持っていたんじゃないの?」
「いや、別に。いつか必要になるのかと思って」
驚いて尋ねると、さらに意味不明な回答が返ってくる。どこまでも掴めない人だ。
だけど本当に被る気はないようで、いらないなら捨てるけど、なんて言うもんだから慌てて貰うことにした。捨てるだなんてもったいない。
手渡された帽子に銀色の長い髪を押し込む。
うん、やっと落ち着いた気がする。
1人満足していると、マリーは今思いついたとばかりに、さらに驚くようなことを言ってのけた。
「よし、じゃあおれもそのナントカ島までついて行こうかな」
ぽかんと口を開けてしまう。
「……なんで?あたしが友達になろうなんて言ったから??」
「別に行くところもないし。暇にしてたからちょうどいいやと思って」
そう言って目を細めて笑う。
ちょっと待ってよ。そんなふらっとそこまで、って感じで言うものでは無いと思うけど!
ここからだと片道5日くらいかかりそうだし、それに行った後どうするんだろう。
大好きな島だからこんな風に言いたくは無いけれど、旅の目的地になるようなところでは無いと思う。
驚いたまま何も言えずにいると、マリーは俄然やる気になったようで颯爽と立ち上がった。
「さぁ、まずは船を探しに行こう」