第4章 友達
青年は不意にこちらを見た。
「君はこれからどこへ行くの?」
「うちに帰るの。ミカヅキ島の」
反射で答えると、ふうん、とつまらなさそうに相槌を打つ。聞いたくせに。なんかつかみどころのない人だ。
「あなたは?どこから来たの?」
「すごく遠いところ」
あたしからもお返しに聞いてみたら、ひどく曖昧な答えが返ってきた。
教える気はないってこと?まあ、どこか街の名前を言われても分かる気はしないんだけど。
「じゃあ、名前は?」
続けて質問すると、ちらっと目線を合わせながら彼はいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「おれのこと、気になる?」
何よ、その言い方。
「別に?」
含みを持たせた言い方にちょっともやっとして、そっけなく答えたのに、そんなあたしに流し目をくれて少し笑う青年。完全にからかわれている気がする。
ムッとしてるあたしにおかまいなく、青年は悩むように呟いた。
「名前か…どうしようかな」
どうしようかなって…自分の名前でしょう?
思わず怪訝な顔をしてしまう。
「君はなんていうの?」
「あたし?」
さっきからあたしばっかり答えている気がするな。
とは思ったけど、結局、ちょっと悩んだ末に本当の方を答えた。今は髪も下ろしているし、別に偽る必要はない。
「アウラよ」
「アウラ、ね。いい名前だね。…誰かにつけてもらったんだね」
そう言って、その顔に小さく笑みを浮かべる青年。そして、急におかしなことを言い出す。
「そうだ。おれに名前つけてよ。無いんだ、名前。おれも誰かにをつけてもらいたい」