第7章 純潔を失った天使は
「安心しろよ。オマエの血は、滅多にお目にかかれないくれぇ極上だ。天使の血が流れてる、特別な血だからな」
「…………」
「代わりなんていねぇよ。……んっ……」
「う…っ…」
「…ん…っは、やっぱ、オマエの血は最高だぜ。ククッ、キケンだな。んっ…オマエの味に慣れると、舌が肥えて…っ…例えチチナシの血でも、オマエの血が一番だって思っちまう。……いや、もうなってんな」
「そ、そんなこと言われても…」
「責任取れよ、メグル?……っ……はぁ。」
本当に、どうかしてる。
アヤトくんの言葉に、どこか安心している自分がいるなんて…
嬉しい、と感じるなんて…
私は、湧き上がってくる感情を『違う』『そんなわけない』と何度も何度も否定した。
ダメだ。このままじゃ。
心が、堕ちていく。
自分が怖くてたまらない。
「(…ダメ。心まで堕とされたら…甘い快楽から逃げられなくなる──。)」
それでもアヤトくんの吸血に抗えず、私はただその身に任せるしかなかった…。
◇◆◇
【自室】
「よし、宿題完了!」
その夜、私は机に向かって今日出た宿題を終わらせていた。あの後意識を失って気づいたら自分のベッドで寝ていた。きっとアヤトくんが運んでくれたんだろう。
「寝る前に温かいココアでも飲もうかな。本当はカフェモカがあれば淹れたかったんだけど…この屋敷にはないよね」
コンコンッ
「ん…?はーい?」
部屋のドアがノックされた。アヤトくんなら普段は勝手に入ってくるのに、今日は違うみたいだ。
ガチャッ
「…こんばんは」
「え…カナトくん!?」
私はギクリと肩を揺らす。カナトくんが私の部屋に来るのは珍しかった。
「その顔は…他の誰かが来るのを期待していたって顔ですね」
「そ、そんなことないよ!」
「ふうん…」
「それより、どうしたの?私に何か用事?」
「…廊下に立ったままで、僕に話をさせるつもりですか?」
「え?」
「一応、唯一の君のテリトリーだからと、招きの言葉が出るまで待ってあげてるんです。君ってそんなことも察せられないんですか?」
「あ、ご、ごめんね。どうぞ、入って」
「…ありがとうございます」
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