第6章 芽生えた感情の名は
「ふぅん……」
「(呪いを解く為に下界に来た…なんて言えるわけがない。)」
「けど天使ってさ、神の加護を受けてるから天界から出たらダメなんじゃねーの?」
「!よく知ってるね…」
「ガキの頃、オヤジから聞かされた。天界で暮らす天使は神の加護を受けて育ったから、外界に出るとその加護は失われるって。だから滅多に姿は見せねぇし、天界からも出られねぇって」
「……………」
「それなのに下界に興味があるっつー理由だけでオマエは天界から出られたんだな。神の加護っつうのが消えたりすんじゃねーの?」
「…確かに神様の加護は消えてるけど、別の加護が私を守ってくれてるから。それに無理を言って下界に来たの。でもそのせいで簡単には天界に帰れなくなっちゃったけど…」
下界に来た日、私は神様の加護を失った
神様の加護がなければ
私たち天使は魔界からの悪影響を受け
"堕天"してしまう可能性があるのだ
けれど亡き母の加護が私を守ってくれている
だから今もこうして
魔族であるアヤトくんの傍にいても
悪影響を受けずに暮らすことができている
「あ、いい感じに仕上がってきた。アヤトくん!楽しみにしてていいよ!」
「…ま、そこまで言うなら食ってやらねぇこともねー」
「はいはい」
ハンバーグもいい感じに焼けたし
もうちょっと煮込んだら味を整えて…
「……………」
「(肉汁もたっぷり出るはず!)」
「………………」
退屈そうに椅子に座っていたアヤトくんが立ち上がり、気付けば私の背後にくっ付いていた。
「わっ……」
ギュッと抱きつかれ、驚いて顔を上げればアヤトくんの顔が近くにあってドキッとした。唇と唇が触れそうな距離にある。
「な、何?どうしたの、アヤトくん?」
「……………」
「えっと…そんな後ろから抱きつかれると、料理しづらいんだけど…」
「20分とか長ぇよ」
「え?」
「待ちきれねぇ」
「そんなこと言われても…じゃあ、できたら呼ぶから自分の部屋にでも…」
「つまんねー」
「(もー、どうしろって言うの…)」
相変わらずの我儘に肩を竦める。デミグラスソースが入っている鍋にふと視線を向けた。
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